- ・会社の売却、M&A(会社の買収と合併)を考えている経営者の方
- ・会社の購入を考えている方
- ・これから会社経営を始めることを考えている方
M&Aに対してなんとなくネガティブなイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、事業承継を考えるにあたって、有効な手段のひとつと言えます。
また、M&Aは契約内容によって、従業員の雇用を守ることもできますし、取引先との契約も守ることができます。ですので、廃業を考えている方も、廃業前に一度は検討してみてはいかがでしょうか。
今回は会社売却、M&Aについて解説していきます。
【目次】
- 1.会社売却・M&Aの方法とは?
- ① 株式譲渡
- ② 事業譲渡
- 2.会社(事業)を売却する側のメリット
- ① 後継者不足の解消
- ② 廃業費用や手間が省ける
- ③ 借入金等の債務を買収する側に引き継ぐことが可能
- 3.会社売却・M&Aの流れ
- ① 事業譲渡の流れ
- ② 株式譲渡の流れ
- 4.会社売却・M&Aの注意点
- 注意点1 会社売却・M&Aの交渉が複雑
- 注意点2 情報漏洩のリスク管理
- 5.会社売却・M&Aでお困りの方は、当事務所までご相談ください
1.会社売却・M&Aの方法とは?
① 株式譲渡
M&Aにおける代表的なスキームの一つに株式譲渡があります。売却会社の株主が、購入会社に保有する株式を売却して、購入会社が売却会社の親会社になることを目的とします。
株式は、会社に関する権利(会社の重要事項を決定する決議権、配当を受ける権利等)を平等に分割したもので、親会社が子会社の経営権を事実上有しています。
② 事業譲渡
株式譲渡と並んで、M&Aにおける代表的なスキームの一つに事業譲渡があります。
事業譲渡とは、会社の事業の全部又は、重要な一部を譲渡すること(会社法467条1項)をいいます。
このスキームは、株式譲渡とは異なり、売買当事者の契約によって承継の対象となる事業を選択することができる特定承継である点に特徴があります。
また、事業譲渡を行っても売主である会社自体は残るため、売主会社を消滅させるためには別途解散・清算の手続きが必要です。
2.会社(事業)を売却する側のメリット
① 後継者不足の解消
オーナー社長が高齢のため事業(会社)の経営を承継したいとのニーズがあり、その子が承継する場合や、経営陣や従業員との間で承継の意思の合致がある場合は、後継者に経営を引き継ぐことが可能です。
しかし、昨今、中小企業においては後継者不足が深刻化してきています。後継者がいない場合、会社が黒字であっても廃業せざるを得ず、取引先に深刻な影響を与え、ひいては社会に深刻な影響を及ぼす恐れがあります。
このような中、後継者不足を解消する手段として、会社売却やM&Aが注目を集めています。M&Aの相手方は、仲介会社等によって紹介されることが多く、会社や親族の枠を超えて、広く募ることで、意欲的な後継者を見つけることができる場合があります 。
M&Aの件数については、東日本大震災の2011年以降、新型コロナウイルス感染症の流行があった2020年以外は一貫して増加しています。グラフ上の件数は、公表されているM&Aの件数であるため、非公表のものも含めると、実際にはさらに多くのM&Aがなされていることになります。
② 廃業費用や手間が省ける
後継者がいない場合や、営業利益が赤字で売上増加・経費削減の施策を講じても黒字になる見込みがないような場合、廃業を選択せざるを得ないこともあります。
事業承継や株式譲渡を行うことで、会社(事業)を存続させることができれば、廃業を免れ、そもそも廃業の手続を踏む必要がありません。
廃業には、
・解散・清算等の法的手続にかかる費用
・機械等の設備を処分するのにかかる費用
・商品がある場合、在庫の処理にかかる費用
・借りていた物件から退去する場合にかかる原状回復費用
・従業員に支払う解雇予告手当
等の費用がかかります。
また、負債も廃業前に精算しておく必要があります。
解散・清算には、複数回の株主総会、確定申告、登記申請が必要となるため、手続きを完了して、最終的に法人格を消滅させるまでに、半年ほどかかります。
なお、株式譲渡等のM&Aによる場合でも、買い手を探す仲介業者への手数料等の費用がかかりますがその代わり株式の譲渡代金を得ることが一般的です。
手続きについては、後述のように後継者を探すことから、クロージングまで、慎重に行われるため半年から一年程度はかかりますし、買い手が見つからず、数年単位の時間がかかったり、結局、解散等の手続きをせざるを得ないケースもあります。
後継者探しについては、事業承継・引継ぎ支援センターの利用や、マッチングサイトの利用、M&A仲介会社の利用によっても行うことができます。
③ 借入金等の債務を買収する側に引き継ぐことが可能
事業譲渡は、譲渡する資産・ヒト・モノ・権利の範囲を選択することができるため、借入金等の債務を承継対象に含めた事業譲渡契約を締結した場合、買収会社に債務を引き継ぎ、売主側の会社に債務を残さないことも可能です。
ただし、あくまでもこのような債務の移転には、債権者の個別の同意を必要とします。
一方、株式譲渡は、会社そのものが譲渡されるため、債務も買収対象会社に残ったままとなります。株式譲渡は会社所有権の取引であるため、債務者の変更を意味しません。
なお、買収対象会社が銀行借入等をしている場合、元々の経営者が連帯保証人となっていることも少なくありません。そして、株式譲渡に伴い、経営者が交代することも多いですが、連帯保証人の引継ぎには、
- 債権者たる金融機関には連帯保証の解除]
- 買い手会社には連帯保証の引継ぎ又は再契約の了承
が必要となります。
そのため、連帯保証人を買い手側の新経営者に引き継がせるためには、債権者たる金融機関の同意・買収する会社と確認や交渉をする必要があります。
3.会社売却・M&Aの流れ
① 事業譲渡の流れ
事業譲渡のニーズが生じた場合、譲渡側は以下の流れで事業譲渡を進めていきます。
事業譲渡のクロージングまでの流れは大きく分けて、「準備段階」「交渉段階」「最終契約段階」に分けることができます。
準備段階
事業譲渡を行う目的を明確にできた場合、買い手候補を探す準備を行います。
具体的には、目的達成に合致する買収先の条件の絞り込みを行い、M&A仲介者を通じて買い手候補にノンネームシートを開示し、交渉相手を募ります。
ノンネームシートとは、事業の概要や売上・従業員数が記載された会社に関する資料で、買い手候補はこれを見て購入の検討を行います。
交渉段階
交渉相手が決まると、まず秘密保持契約(NDA)を締結する必要があります。
NDAとは、開示された会社の秘匿情報について、目的外での使用・第三者への漏えいを禁止し、取引相手の企業や自社従業員に対して守秘義務等を課す契約のことをいいます。
NDAの重要性について、詳しく後述します。
買収側は、売却会社の基礎情報の開示を受けたうえで分析判断を行います。お互いに譲渡の現実性を見出せば、各当事者のトップが直接面談を行います。
その後、買い手企業が意向表明書を、仲介会社を通じて売り手に提出することがあります。
トップ面談が終わると、基本合意書(MOU)を締結します。その内容は、M&Aの基本スキームの確認、取引価格の確認、デューデリジェンスの協力の誓約、独占交渉権の付与が含まれることが一般的です。
最終契約段階
次にデューデリジェンスが行われます。デューデリジェンスを行うタイミングに制限はありませんが、基本合意書締結後が一般的です。
デューデリジェンスとは、対象会社の法務・財務などの様々な面の調査・評価を行い、対象会社が抱えている法的障害・リスクの発見・M&Aによって生じるシナジーの分析を行います。
デューデリジェンスの範囲は極めて広く、
代表的なものは
- 所有している不動産
- (潜在)債務
- 特許等の知的財産
- 従業員に対する未払賃金の有無等の労務リスク
- 税務リスク
- 許認可関係
などが挙げられます。
なお、売り手が主導となって、セルサイドデューデリジェンスを行うこともあります。これは、売り手が複数の買い手候補を相手に入札形式で売却先を決定する場合で、買い手が購入金額などの条件を検討するための資料を売り手が提供するものです。
また、会社の規模やスピード感、交渉状況などによっては、デューデリジェンスを行わずに、決済を行うようなケースもあり、現に、当事務所が契約書作成を担当したケースでもそのようなケースがありました。
ただし、このような場合、会社内情がわからず、買い手にはリスクが伴うため、契約書の内容を十分検討することが重要となります。
デューデリジェンスによってM&A実施の是非・契約条件を決定した場合、会社内での所定の手続(取締役会の決議、株主総会特別決議)を経て、事業譲渡契約の締結を行います。
契約が締結されれば、契約内容にしたがってクロージングが行われます。クロージングとは、M&A取引の実行のことをいいます。
事業譲渡の場合は、譲渡対価の支払いのみならず、譲渡対象事業に関わる契約内容の移管のための手続が行われます。
② 株式譲渡の流れ
基本合意書までの大まかな流れは、事業譲渡の場合と似たような流れとなります。もっとも、株式譲渡特有のものとして、クロージングまでに、以下の手続きを踏む必要があります。
-
株式譲渡人から会社に対する株式譲渡承認請求
会社によっては、株式譲渡の際に、承認機関による譲渡承認を要する譲渡制限株を設定している会社があります。
保有する株式を譲渡する場合、株式の保有者は、会社に対して株式譲渡を承認するよう請求することができます。譲渡承認請求書を提出して行われますが、同請求書には譲渡する株式の種類・数、相手方の名称が記載されます。
もっとも、株主と代表者が同じである場合など、事実上内諾が得られている場合もあります。 -
承認・非承認の決定
取締役会設置会社の場合、譲渡承認請求に対する決定は、原則として取締役会が行います。
一方で、非取締役会設置会社の場合、株主総会によって決定されます。 -
株式譲渡人に対する株式譲渡の承認通知
上記手続きによって承認の決定があった場合、株式譲渡人に対して承認決定があった旨通知を行います。
なお、譲渡承認請求があった日から二週間以内に通知が行われなかった場合、会社は譲渡を承認したものとみなされます。 -
デューデリジェンスと条件交渉
事業譲渡の場合と同様、詳細なデューデリジェンスを行い、最終的な取引条件を交渉します
-
株式譲渡契約の締結とクロージング
デューデリジェンスを経て契約締結の是非・条件を決定したら、株式譲渡契約の締結を行います。
その後、契約書に記載されたクロージング日に株式を買収側に渡し、買収側は譲渡代金を支払います。 -
株主名簿の書き換えと証明書の交付
株式の取得は、株主名簿に氏名・住所が記載されない限り、会社・第三者に対抗することができません。そのため、株式の売主と買主が共同して、会社に対して株主名簿記載事項の書き換えを求めます。
なお、株式譲渡の効果自体は株券不発行会社の場合は当事者の意思の合致通りに生じ、株券発行会社の場合は株券の交付によって生じます。また、買い手株主は、株式会社に対して株主名簿記載事項証明書の交付を請求できます。
4.会社売却・M&Aの注意点
注意点1 会社売却・M&Aの交渉が複雑
デューデリジェンスの対応により大量の資料開示を行う必要があるため、
- 交渉が進まない
- 過去の議事録等書類不足で買取りが止まる
- 買取価格が下がる
ような場合もあります。
会社売却・M&Aの契約書には、多くの項目が記載されるため、これに伴い条件交渉も複雑となります。買い手側としっかり認識を合わせ、売却側が一方的なリスクを負わないようにしっかり話合うことが重要となります。
そこで、事業譲渡契約書に記載される項目のうち、代表的なものをご紹介します。
① 事業譲渡・株式譲渡契約書の目的
② クロージング日
クロージング日は、目的との関係で、逆算して設定する必要があります。特に、事業譲渡のような特定承継の場合、前会社が有していた許認可などは承継されず、別途申請をする必要があります。そのため、営業開始まで一定の期間を要する場合があります。
③ 事業譲渡における対象事業
事業譲渡によって承継される事業の範囲(財産・債務)を明確にする必要があります。できる限り個別具体的に特定することが重要であるため、細目について、別紙にまとめられることが多いです。
④ 譲渡価格
事業譲渡の対価として支払われる価格及び支払期日や条件を明確にする必要があります。
⑤ 誓約(プレクロ)
プレクロとは、Pre-closing covenantsのことをいい、クロージング前にするべき義務をさします。例えば、以下のものが挙げられます。
- 取引先の承継:承継事業に関する取引先に対して、クロージング前日までに、本件事業譲渡について十分な説明を行い、取引先も承継できるよう、取引先の承諾を得る義務
- 従業員の取扱:従業員を転籍させる義務及び、クロージング日までに生じた労働契約に関する債務の一切を履行する義務
- 株主総会決議:事業譲渡に必要な株主総会決議を、クロージング前日までに取得する義務
- 許認可:本事業譲渡に必要な許認可の取得等の手続に協力して行う義務
- 移転手続:事業譲渡は取引行為であるため、契約上の地位や債務の移転について、相手方の同意を得る義務
- 善管注意義務
⑥ 誓約(ポスクロ)
ポスクロとは、Post-closing covenantsのことをいい、クロージング後に行うべき義務を指します。例えば、以下のものが挙げられます。
- 競業避止義務
⑦ 表明保証
デューデリジェンスの結果を踏まえ、表明保証事項を定めます。内容としては、「譲渡元が把握する限り、対象事業は適切に運営されており、行政指導等を受けていないこと」「信義則上開示するべき重要な
情報は、すべて開示されており、その内容に虚偽のないこと」などが記載されます。
⑧ クロージングの前提条件
相手方の表明保証が真実かつ正確であること、相手方がクロージングまでに本契約に基づいてなすべき
義務のすべてを履行し、遵守したこと、等を義務の前提条件として規定します。
⑨ 解除
⑩ 補償
表明保証違反、本契約の義務違反に対する損害・損失・費用の補償について定めます。
期間と金額の上限も併せて規定します。
⑪ 一般条項
- 秘密保持義務
- 公租公課・費用
- 第三者への公表日
- 通知等(今後の連絡・通知方法の規定)
- 残存効(契約終了後の法的効力の継続についての規定)
- 契約上の地位又は権利の譲渡
- 条項の可分性
- 準拠法・裁判管轄
注意点2 情報漏洩のリスク管理
会社売却・M&A取引に際しては、自社の機密事項を取引の相手に開示する必要があります。
その際に、開示された模倣可能な自社のノウハウや顧客情報といった秘匿性の高い情報が悪用されると、自社の社会的信頼が損なわれ、致命的な経営上の損害を受けるおそれがあります。
また、そもそもM&Aを検討しているという情報自体、取引先に不安を与えかねない情報です。
そこで、情報漏洩に伴うリスクを適切に管理するべく、秘密保持契約(NDA)を締結して、秘密情報の目的外使用の禁止や、守秘義務を課すことが重要となります。
秘密保持契約を締結する際には、以下の点に気を付ける必要があります。
-
NDAを締結する時期
秘密情報開示後にNDAが不成立に終わった場合、買い手候補が、NDAを締結していなければ、そもそもどのような情報が秘密情報とされているかが不明確であるうえ、守秘義務・不正利用の禁止を課すことが難しいです。
もし、NDAの締結を拒まれると、上記のような不利益が生じる危険性があります。
そこで、基本的に、秘密情報の開示前にNDAを締結するよう注意が必要です。
-
秘密情報の内容を明確に
秘密情報外の情報を不正に利用・第三者に漏えいしたとしても、契約違反にはなりません。
事後のトラブルを避けるために、NDAを交わす際には、秘密情報の内容を明確にしておく必要があります。 -
義務違反者に対する処置
NDA上の契約違反に対する処置も、NDAを交わす際に明白にしておく必要があります。
具体的には、契約違反に基づく損害賠償請求責任の発生・秘密情報使用に対する差止請求権の発生が考えられます。 -
秘密保持期間終了後の対応
秘密保持期間が終了すると、NDA上の義務が消滅するため、秘密情報を開示する側としては期間を長く、逆に、開示される側としては短く設定しようと考えます。
交渉時には、秘密の重要性・秘密を保持する負担・開示される不利益等を考慮して、秘密保持期間を設定します。
その他、契約終了後の情報漏えい・不正利用を防ぐために、秘密情報媒体の返還・廃棄・削除を義務付けることが考えられます。
5.会社売却・M&Aでお困りの方は、当事務所までご相談ください
将来、廃業や会社売却などあらゆる対応ができるよう、
・決算書類をきれいにしておく
・書類の不足をなくす
・株をまとめておく
・属人的な要素を減らす
等して、売りやすい会社にしておくことが肝要です。
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