- ・借地期間が終了したことを理由に、土地を明け渡すよういわれている借地人。
- ・借地契約を締結しており、もうじき契約期間が満了する方。
【目次】
- 1. はじめに
- 2. 借地権の種類
- ① 普通借地権
- ② 定期借地権等
- 3. 各種借地権の存続期間及び更新
- ① 普通借地権の存続期間及び更新
- ② 定期借地権等の場合の存続期間、更新
- ③ まとめ
- 4. おわりに
1. はじめに
土地を借りている方の中には、その土地の上の建物に住んでいたり、その建物を店舗や事務所にしたりしている方もいらっしゃると思います。
では、その土地について契約期間が満了してしまうという場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
借地権の更新については事案によってルールが異なりますので、基礎知識がないと地主に言われるがままに立退きをすることになるなど、不利な扱いをされる可能性があります。
そのようなトラブルを防ぐには、まず、借地権についての理解が不可欠です。
この記事では、借地借家法が適用される借地の、存続期間や更新に関する基礎知識などについて、知ることができます。
なお、神楽坂総合法律事務所は、年間100件以上、不動産・相続に係る案件の受任・相談に取り組む、不動産相続に注力した事務所です。また、当事務所は、不動産会社と提携して、不動産の売却や買取のサポートにも対応しています。
例えば、借地権の更新に関して、当事務所でも以下のような事例を扱いました。
借地権付建物を所有していたものの、期間満了を理由に、地主から土地を更地にして返すよう要求され、訴訟が提起された事例。
→この事例では、結果として、法定更新を理由に明渡請求が棄却され、自宅を守ることができました。
借地契約の更新のため、地主から多額の更新料を請求されてしまった事例。
→この事例では、そもそも更新料について契約書の記載や支払実績もないことを理由に、地主と交渉し、数百万円の更新料を節約することができました。
借地権付き建物を相続してこのまま使っていくうえで、わからないことがある方、不安がある方は、一度ご連絡ください。
ここでは、借地借家法が適用される借地の、存続期間や更新に関する規定について解説していきます。
2. 借地権の種類
借地権は「普通借地権」と「定期借地権」があります。土地の貸し借りは、生活への影響が大きく、額も高くなるものですので、借地権を保護するために法律によって存続期間や更新の方法が定められています。借地権の種類によって、借地権の契約期間(存続期間)や、更新が異なってきますので、まず、借地借家法が適用される借地権の種類を見ていきましょう。
① 普通借地権
借地権のうち、後述する「定期借地権等」に関する特約がない借地権は、基本的にこの普通借地権にあたります。
普通借地権の場合、当初の契約期間は30年ですが、より長い期間を契約で定めた場合には、その期間が契約期間となります(借地借家法3条)。また、普通借地権の場合、地主は正当事由がなければ、契約を更新しなければなりません(法定更新)(借地借家法5条、6条)。
② 定期借地権等
「定期借地権等」にはさらに「一般定期借地権」、「事業用定期借地権」、「建物譲渡特約付借地権」の3つに分けることができます。
「一般定期借地権」
一般に、定期借地権付一戸建てなどといったような「住宅用」として、土地を賃貸借するときに利用される借地権です。この借地権は50年以上の契約期間を設けないといけないため、更新の手間は省けます。しかし、更新できないため、半永久的には土地を借りることができません。
特徴
- 存続期間が50年以上
- 契約の更新がない
- 建物の築造(建物滅失後の再築)による存続期間の延長がない
- 期間満了時に借地人が借地権設定者に建物買取請求権をしないこととする特約
- 特約は公正証書等の書面(必ずしも公正証書による必要はない)で行う必要がある。
- 契約終了後は更地にして返還する。
「事業用定期借地権」
事業用定期借地権とは、店舗や商業施設など事業のために用いる建物を所有することを目的とする借地権です。
この借地権では、契約期間が10年以上50年未満となり、その中でも10年以上30年未満の存続期間を定めた場合と、30年以上50年未満の存続期間を定めた場合とで内容が少し異なります。
契約終了後は更地にして返還することとなっています。また、一般定期借地権とは異なり、「公正証書」に特約を記載しなければなりません。
存続期間が10年以上30年未満の場合(借地借家法23条2項)
特徴
- 契約の更新がない
- 建物の築造(建物滅失後の再築)による存続期間の延長がない
- 期間満了時に借地人が借地権設定者に建物買取請求権をしないこととする特約
- 上記特約が公正証書に記載されることが必要。
- 契約終了後は更地にして返還する。
存続期間が30年以上50年未満の場合(借地借家法23条1項)
特徴
- 契約の更新や建物の築造(建物滅失後の再築)による存続期間の延長、建物買取請求権について特約を付すかどうかは任意。
- 特約を付する場合、公正証書によることが必要。
- 一般定期借地権の場合、当初定めた契約期間が終了した場合、土地を更地に戻したうえで、地主に返還しなければならない。
- 契約終了後は更地にして返還する。
「建物譲渡特約付借地権」
建物譲渡特約付借地権とは、契約期間が満了した日に借地上の建物を相当の対価で売却するという特約(建物譲渡特約)が付された借地権のことをいいます(借地借家法24条)。
契約終了後は当然に借地権が消滅し、土地の所有者に建物の所有権が移ります。この借地権では契約期間は30年以上を設定する必要があります。
特徴
- 譲渡特約がある。
- 書面によることは不要だが、文書化しておくことが望ましい。
- 借地権消滅後も借主が引続き建物の使用を継続した場合、借主から請求があった時点で期間の定めのない借家契約が成立する(24条2項前段)。
このように借地権にはいくつかの種類がありますが、それぞれの借地権ごとに契約期間や契約の方法が定められています。ご自身の契約内容をご確認の上、借地借家法のポイントを押さえておくことが重要です。
3. 各種借地権の存続期間及び更新
借地権の種類別に、存続期間及び更新を整理すると、次のようになります。
① 普通借地権の存続期間及び更新
存続期間
普通借地権の存続期間は、一律30年ですが(法定存続期間。借地借家法3条本文)、当事者間の合意で30年以上の期間を定めた場合は、その期間によります(約定存続期間。同条ただし書き)。
更新の方法
普通借地権においては、借地契約の存続期間が終了しても、直ちに契約関係が終了するわけではなく、更新制度があります。更新制度には、当事者の合意による更新(合意更新)と、一定の条件を満たしたときに従前の契約と同一の条件で契約を更新したとみなされるもの(法定更新。借地借家法5条)があります。
法定更新がなされる場合としては、
・借地契約の存続期間が終了する場合において、借地人が契約の更新を請求したとき
・契約期間満了後、借地人が土地の使用を継続するとき
に借地上に建物が存在する場合に限り、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(借地借家法5条1項、2項)。
もっとも、この法定更新に地主が遅滞なく異議を述べたときは、その異議に正当の事由があれば、契約の更新は認められません(同条1項ただし書き、6条)。
正当事由の有無の判断は裁判所が行います。その際、次の要素が考慮されます。
① 地主及び借地人が土地の使用を必要とする事情
② 借地に関する従前の経過
③ 土地の利用状況
④ 地主が土地の明渡を条件として、または土地の明け渡しと引き換えに、借地人に対して財産上の給付をする旨の申し出をした場合における、その申し出
ただ、これらの事情はあくまで判断要素にすぎず、はっきりとした基準があるわけではありません。正当事由の判断について見通しを持つためには過去の裁判例に照らした判断が必要になります。ご不安な方は一度ご相談ください。
更新後の期間
更新がなされた場合の期間は、最初の更新と2回目以降の更新とでは、以下のように異なります(借地借家法4条)。
・最初の更新
最初の更新がされた後の期間は、当事者が期間を決めない場合は20年ですが、当事者が合意で期間を決めるときは、20年以上であることが必要です。
・2回目以降の更新
当事者が期間を定めない場合は10年ですが、当事者の合意で期間を決めるときは、10年以上であることが必要です。
賃貸借契約の更新をしないという特約
賃貸借契約の更新をしないという特約(例えば、賃貸借期間満了の際に借地を直ちに明け渡す旨の特約)は、借地権者に不利な特約であるため、借地人に不利益とならない特段の事情が存しない限り、無効です(最判昭和52年12月19日判時877号41頁、東京高判昭和54年12月12日判時958号68頁など)。
また更新期間を法定の期間よりも短期間とする特約も、借地借家法9条における強行法規違反として無効となるので、注意しましょう。
更新できなかった場合の対応
借地契約が更新されず終了した場合でも、借地人は、地主に対し、借地上の建物等を時価(建物としての価格)で買い取るよう請求することができます(建物買取請求権。借地借家法13条)。
買取価格は、地主の方との協議で決まりますが。価格について、当事者間で協議が調わない場合には、裁判所が定めることになります。
なお、借地人が建物買取請求権を放棄する特約は、借地権者に不利な特約であるため無効となります(借地借家法16条)。
② 定期借地権等の場合の存続期間、更新
「一般定期借地権」の場合
存続期間
一般定期借地権の場合は、その存続期間を50年以上として借地権を設定することが求められています(借地借家法22条)。
更新
一般定期借地権の場合は契約を締結する段階で「契約の更新がない」という特約を公正証書等の書面で行うことが求められています。更新はできませんが、例えば「存続期間満了において、当事者の合意の上、10年間の延長をすることができる」などのような条項を設けることは認められています。このような規定であれば、存続期間の満了を前提としているため、更新や存続期間の排除特約に反しないと考えられているためです。
「事業用定期借地権」の場合
存続期間
事業用定期借地権の場合、その存続期間を30年以上50年未満(借地借家法23条1項)あるいは10年以上30年未満(同条2項)として借地権を設定することが求められています。
更新
一般定期借地権と同様に更新はできません(借地借家法第22条第1項、同法第22条第2項、同法第23条)が、当初の設定日から法定期間を超えない存続期間の延長は可能です。
「建物譲渡特約付借地権」の場合
建物譲渡特約付借地権は、借地権設定後30年以上を経過したときに、借地上の建物を土地の所有者に相当の対価で譲渡する旨の特約を付した借地権であるため、その存続期間は30年以上ということになります。
建物譲渡特約付借地権をめぐっては、個々の契約条項の解釈によるところが大きいので、どのような規定が契約書に設けられているかしっかり確認するようにしましょう。
③ まとめ
最後に、それぞれの特徴を簡単にまとめると以下の表のようになります。
普通借地権 | 一般定期借地権 | 事業用定期借地権 | 建物譲渡特約付借地権 | |
---|---|---|---|---|
利用目的 | 制限なし | 制限なし | 事業用建物の所有(居住目的×) | 制限なし |
存続期間 | 30年以上 | 50年以上 | 10年以上50年未満 | 30年以上 |
契約方法 | 口頭でも可(通常は書面) | 公正証書等の書面 | 公正証書 | 口頭でも可(通常は書面) |
特約の内容 | - | ・更新なし ・存続期間の延長なし ・建物買取請求権なし |
・更新なし ・存続期間の延長なし ・建物買取請求権なし |
30年を経過した時点で建物を地主に売却する |
借地契約の終了 | 法廷更新または合意更新がされる。地主が更新を拒絶するには正当事由が必要。 | 期間満了により終了 | 期間満了により終了 | 建物譲渡により終了 |
契約終了時 | 建物買取請求権あり。 | 原則として、更地にして返還する。 | 原則として、更地にして返還する。 | 建物は地主が買い取る。建物を賃貸して住み続けることも可能。 |
普通借地権 | |
---|---|
利用目的 | 制限なし |
存続期間 | 30年以上 |
契約方法 | 口頭でも可(通常は書面) |
特約の内容 | - |
借地契約の終了 | 法廷更新または合意更新がされる。地主が更新を拒絶するには正当事由が必要。 |
契約終了時 | 建物買取請求権あり。 |
一般定期借地権 | |
利用目的 | 制限なし |
存続期間 | 50年以上 |
契約方法 | 公正証書等の書面 |
特約の内容 | ・更新なし ・存続期間の延長なし ・建物買取請求権なし |
借地契約の終了 | 期間満了により終了 |
契約終了時 | 原則として、更地にして返還する。 |
事業用定期借地権 | |
利用目的 | 事業用建物の所有(居住目的×) |
存続期間 | 10年以上50年未満 |
契約方法 | 公正証書 |
特約の内容 | ・更新なし ・存続期間の延長なし ・建物買取請求権なし |
借地契約の終了 | 期間満了により終了 |
契約終了時 | 原則として、更地にして返還する。 |
建物譲渡特約付借地権 | |
利用目的 | 制限なし |
存続期間 | 30年以上 |
契約方法 | 口頭でも可(通常は書面) |
特約の内容 | 30年を経過した時点で建物を地主に売却する |
借地契約の終了 | 建物譲渡により終了 |
契約終了時 | 建物は地主が買い取る。建物を賃貸して住み続けることも可能。 |
4. おわりに
借地権に関しては、多くの複雑な規定が多く、判断が難しい場面も多いと思います。
一方で、特にトラブルが起きやすい契約関係でもありますので、
トラブルの迅速な解決やトラブルの事前防止をご希望の場合は、弁護士にご相談ください。
神楽坂総合法律事務所は、
借地権の更新拒絶・地代の値上げ・登記の名義変更・明け渡し請求・更新料・増改築禁止特約・トラブルの対応など、
さまざまな借地権の法律問題について、相談を承っております。
お悩みの際はお気軽に当事務所までご相談ください。
専門の弁護士にご相談ください!
神楽坂総合法律事務所は、不動産トラブルに
豊富な経験と実績があり、相続、企業法務、事業承継・M&A・廃業、労働にも注力しています。