不動産を賃貸しているけれど、
・「借主がなかなか家賃を払ってくれないが何か方法はないか」
・「長期間の家賃滞納があるため、借主に出て行ってもらいたい」
・「借主に夜逃げされ、その荷物がそのままになっている」
など、家賃の滞納にかかわるトラブルで困っている不動産オーナー
【目次】
- 1. はじめに
- 2. まずは借主に連絡
- ※すぐ連絡することのメリット:支払の優先順位があがる
- 3. 滞納理由の確認・話し合い
- 4. 連絡してもダメだったら…内容証明郵便
- 5. 内容証明郵便でも折れない…法的手続きの力を借りよう!
- ① 明渡請求をするかの検討
② 家賃滞納の裁判手続きの種類
民事調停 支払督促 少額訴訟 民事裁判 ③ 勝訴判決を得ることができた!強制執行! - 6. 家賃の滞納を防止するために
- 7. おわりに
1. はじめに
建物や部屋を貸したことのある方やこれから賃貸を考えている方の中には、
- 「賃借人に家賃を滞納されないためにどうすればいいのか分からない」
- 「家賃を滞納されたらどのような対応をすればよいのだろう…」
と不安を抱えている方も少なくないと思います。
この記事では、不動産を賃貸しているオーナーの方のために
- 家賃の滞納があった場合の対処法
- 家賃の滞納をされないようにする予防策
について順に解説していきます。
神楽坂総合法律事務所は、年間100件以上、不動産に係る案件の受任・相談に取り組む、不動産に注力した事務所です。
特に、不動産明渡請求では、執行業者と提携し、明渡執行も含めて対応を行っており、借主に夜逃げされてしまった案件を除き、滞納された家賃はほぼ100%回収できています。
また、当事務所は、不動産会社と提携して、不動産の売却や買取のサポートも対応しています。さらに、代表弁護士自身も不動産投資を行っており、自身の案件でも家賃滞納者からの回収も行っているため、不動産オーナーの立場からもご相談に乗れます。
家賃滞納や土地や建物の明渡トラブルでお困りの方は、一度ご連絡ください。
さて、実際に賃借人が家賃を滞納している場合に、どのように対応していけばよいのでしょうか。基本となる事例を設定し、さらに細かい設定を付け加えていくことで「こういう場合だったらどうなるか」「さらにこういう事態に進んだらどうなるか」という視点で見ていきましょう。
X(賃貸人)は、大学生Y(賃借人)と賃貸借契約を締結し、ある部屋を貸しています。初めのうちは、家賃を毎月しっかりと払ってくれていたので、Xは安心していました。ところが、Yはあるときから家賃を滞納し始めました。
2. まずは借主に連絡
「家賃を払ってくれない」という金銭トラブルについては、「訴訟を提起して払ってもらう」というようなイメージがあるかもしれません。
しかし、
実際には、まず、借主に連絡をすることが大切です。
連絡の方法は、電話でも、郵送でも、直接会ってでも、なんでも構いません。ただし、直接会ってトラブルになる可能性があるのであれば、電話や郵送による連絡が適当です。また、催告したことを記録として残すためには、郵送で控えをとるのがよいでしょう。
※すぐ連絡することのメリット:支払の優先順位があがる
大切なことは、借主内での優先順位を上げることです。
借主が支払うべき費用は、家賃だけではありません。水道光熱費、携帯電話、クレジットカード、その他現金で買いたいもの等、様々な支払先があります。もし一部しか払えない場合、借主は、どこから支払うか検討します。
家賃から支払ってもらうためには、家賃の支払の優先順位を上げることが大切です。つまり、借主に「家賃を支払わないと大変なことになりそうだ」と思わせる必要があります。
そこで、家賃滞納後すぐに貸主から連絡がくれば、「家賃管理がきちんとされている、支払わないと毎回連絡がきて対応が面倒だ」と感じてもらえるはずです。
連絡により支払の優先順位をあげれば、家賃の早期回収につながるだけでなく、今後の滞納の予防にもなります。
3. 滞納理由の確認・話し合い
連絡の際には、なぜ家賃が滞納されているのか確認しましょう。
仮に「うっかり支払を忘れていた」という場合であれば、すぐに支払に応じてもらえるでしょうし、「数日待てば払える見込みがある」という場合には、少し期限を猶予すれば解決するかもしれません。
訴訟には、時間もお金もかかります。できれば話し合いの段階で解決できるのがベストです。
先程の<基本事例>で、XはYに連絡し、Yの滞納理由を確認しました。
Yは、大学での研究に勤しんでおり、家賃のことが頭からすっぽりと抜け落ちていたのでした。そのため、家賃引き落とし用の口座に家賃を入れるのを忘れていただけだったのです。
連絡の結果、事例1のような事情が判明することがあるかもしれません。このような場合には、支払ってほしい旨を伝えれば間違いなく支払ってもらえるでしょう。
※連帯保証人がいる場合
やむを得ない事情があるのではなく、故意に支払っていないだけだったことが判明したとしても、連帯保証人がいる場合には、そちらに請求してみるという方法もあります。
ここでの注意点は主に2つあります。
① できるだけ借主にまず連絡をする
法的には、借主に対する連絡の前に、連帯保証人に支払の連絡をすることも可能です。しかし、いきなり、連帯保証人に連絡をすることに対して不満を持つ借主もいると思います。トラブルを避けるためにも、まずは借主本人に連絡をしましょう。借主から反応がなかったり支払が難しかったりする場合に、連帯保証人に連絡する、という順番を守ることで借主とのトラブルを防止できます。
② スピードが重要になる場合もある
例えば、借主が大学生で、その父親が連帯保証人になっている場合、回収を放置してなかなか連帯保証人に連絡しない間に、父が定年退職して回収が難しくなるなどのリスクもあります。
このような注意点を意識して、それぞれの借主の事情ごとに連絡を入れる相手とタイミングを考えましょう。
4. 連絡してもダメだったら…内容証明郵便
次の方法として、内容証明郵便で家賃の支払いを請求するという方法が考えられます。
「内容証明郵便」はご存知でしょうか。まずは、内容証明郵便の機能から確認していきましょう。
内容証明郵便は、「いつ、誰に対して、どのような内容の郵便を出したのか」を証明してもらえるというものです。つまり、「○月×日、Xは、Yに対して、家賃の支払いを請求する内容の郵便を出した」ということが証明してもらえるということです。これは、今後訴訟手続きに移っていくことを考えると、とても重要な証拠といえます。
また、内容証明郵便は、くだけた言い方をすると、「カチッとした文書」であるといえます。そして、既に述べたとおり訴訟手続きの前段階に用いられるため、今後訴訟提起の可能性があることを示唆することができます。
これらのことから、相手に心理的なプレッシャーをかけることができます。
Yは、届いた内容証明郵便を見て焦るとともに、「訴えられたら弁護士に頼んだりするお金とか必要になりそうだし、今支払っちゃった方が楽なんじゃないか?」と考えて、支払いに応じることに決めました。
訴訟手続きとなると、訴えられた相手側も大変な手間とお金がかかることになりますから、この段階で折れて支払うという人も多いといえるでしょう。
5. 内容証明郵便でも折れない…法的手続きの力を借りよう!
Yは、神経が図太く、内容証明郵便すらも無視してしまいました。全く支払ってくれる気がないようです。すでに滞納家賃も3カ月が過ぎ、このままでは、家賃収入への影響が大きくなってしまいます。早くなんとかしなければなりません。
これでも支払ってくれない場合には、法的手続きの力を借りることが考えられます。
① 明渡請求をするかの検討
さて、ここで検討すべきことは、
滞納家賃だけ回収するか、明渡しも請求するか、です。
滞納家賃を回収する場合の注意点
滞納家賃が増えるほど、回収自体が困難になります。回収には早めに着手すべきです。
また、家賃を払ってくれない人は、事情が変わらないと継続して不払いを行う可能性があり、この場合、家賃回収の機会損失となってしまいます。
昨今、賃貸等の投資用不動産は、利回りでその価格が決定されています。利回りを想定して価格が決定されると、家賃が入ってこない不動産は、安く評価されてしまうので、家賃滞納の継続は、不動産の価値にも影響します。
もし、3カ月以上滞納があれば、明渡しも検討しましょう。
明渡も請求する場合の注意点
さらに費用がかかる点に注意しましょう。
明渡し裁判もやる場合、さらに弁護士費用、裁判費用、明渡の執行費用がかかります(数十万円から100万円以上かかることもあります)。
また、新しい入居者を探す必要がでると、原状回復の費用や仲介手数料もかかる可能性があります。
② 家賃滞納の裁判手続きの種類
請求内容が定まったら、裁判手続きをすることになります。具体的な手続の種類とその特徴を確認しましょう。
民事調停手続き
裁判所の任命する調停委員に仲介してもらい、話し合いで紛争解決を試みる手続きです。費用が安く、手続きが比較的わかりやすいという利点があります。一方、相手方が指定された日時に裁判所に来なければ話し合いをすることができず、また話し合いが行われたとしても長引いてしまうことがあり得ます。
支払督促手続き
裁判所に申し立てて、書類審査をしてもらい、相手方の言い分を聞かずに金銭等の支払を命じる「支払督促」を発してもらうというものです。
費用や手続き面での利点があるのは同様ですが、相手方が異議を申し立てると訴訟手続きに移行してしまいます。
※支払督促手続きでは、明渡請求をすることはできません。
※手続費用
支払督促手続きの申立手数料は、訴訟の半額です。訴額が100万円以下の場合、申立手数料は、訴額10万円ごとに500円です。
その他、郵便切手代や、登記簿謄本の取得費用(1部600円)がかかります。
少額訴訟手続き
紛争の額が60万円以下である場合には、少額訴訟手続きを利用することができます。
原則として1回の期日で審理が終了し判決がでるため、通常の民事訴訟を提起する場合よりも簡単に判決を得ることができます。
※少額訴訟手続きでも、明渡請求をすることはできません。
民事裁判
滞納額が60万円を超える場合には、(140万円以内なら簡易裁判所に提起する場合もありますが)通常の民事訴訟を提起することになります。
簡易裁判所での訴訟手続きは司法書士でも訴訟代理人となることができますが、地方裁判所に訴えを提起する場合には、弁護士でないと訴訟代理人となることができません。いずれにせよ、訴訟代理をお願いするためのお金がかかってしまいます。
③ 勝訴判決を得ることができた!強制執行!
裁判が終わっても当然に賃料が回収できるわけではありません。
借主が家賃の支払いや明渡しをしない場合、事件記録のある裁判所の書記官に執行文を付与してもらった上で、執行裁判所に強制執行を申し立てる必要があります。注意しましょう。
滞納家賃の回収
例えば、借主の預金や給与を差押えて賃料分を回収することができます。
※手続費用(参考、東京地方裁判所の場合)
手数料……(申立人・相手方各1人の場合)基本額4,000円
郵便切手……(申立人・相手方各1人の場合)基本額3,495円
明渡の強制執行
明渡の強制執行の申立てが認められ、執行命令が出されたのにもかかわらず、期限を過ぎても借主が退去しない場合には、執行官が強制退去を行います。この場合、執行官の報酬などに充てられる予納金を支払う必要があります。
また、退去のための鍵の施錠や物の廃棄などを民間企業に委託しなければならず、その費用も貸主が負担しなければなりません(一般に30~50万円ほど)。
※手続費用(参考、東京地方裁判所の場合)
申立手数料……相手方の数×500円
申立時の予納郵便切手……(申立人・相手方各1人の場合)94円×1組,1099円×1組
予納金……(物件1つの場合)基本額65,000円
家賃を滞納された場合の対応としては、だいたいこのような手段が考えられます。
訴訟を提起して判決を得ることができれば、強制的に支払いを得ることができますが、やはり時間やお金がかかることを考えると、話し合いや内容証明郵便の段階で解決できるのが理想と言えるでしょう。
6. 家賃の滞納を防止するために
以上のように、家賃滞納があるとどうしても回収が難しいので、家賃滞納を防止することが一番大切です。
以下では、家賃の滞納を防止する方法を紹介します。
① 自動支払い契約
家賃の支払いを忘れたということがないように、あらかじめ自動支払いの契約をしておけば安心です。
② 保証
本人が家賃を支払えなくなった場合に備えて、連帯保証人、保証会社を利用することも考えられます。
保証人や保証機関のほか、保証金、敷金の設定も有効です。
家賃の滞納のみならず、原状回復を考慮し、敷金を多めに設定するということも要検討です。
③ 情報の取得
預金口座
滞納があった場合、預金を差押えることになります。その場合、借主の預金口座を特定しておく必要があります。
もっとも、預金口座をストレートに聞かれるのはあまり気分のいいものではありません。
そこで、例えば、振込手数料を節約できないか考えるので、金融機関・支店を教えて等といった文脈で尋ねれば、借主の不信感を減らすことができます。
職場
借主の職場は、信用調査でも確認すると思いますが、年収と併せて勤務先の情報も確実に取得しておきましょう。
いざというときに、給与差押えをする場合があるため、勤務先の情報は重要です。
給与日
賃貸借契約では、賃料を月の末日に支払うという定めがあることが多いです。
しかし、給与日に近い方が、支払に余裕があることが多いので、滞納する可能性は低くなります。
借主から給与支払日を聞いておいて、給与支払日に近い日を賃料支払日に設定するのがベターです。
④ 契約内容
賃貸借契約では契約締結後、関係を放置することも多いですが、その間に事情が変わることもあります。
トラブルを避けるため、契約の段階で、「事情に変更あったら、連絡しないといけない」という義務を設定したり、更新の際には、職場などの変更がないか、連帯保証人の状況はどうかを確認したりするようにしましょう。
7. おわりに
素早くかつスムーズな解決のために、家賃滞納でお困りの際は、私たち弁護士がサポートいたします。
お悩みの際はお気軽に当事務所までご相談ください。
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