- ・遺産がマイナスの方
- ・事業承継をお考えの方
- 相続争いに巻き込まれたくない方
遺産に借金が多い場合、相続放棄を検討することになります。しかし、法的効力のある相続放棄を行うには、家庭裁判所で所定の手続きを行う必要があります。
ここでは、相続放棄の詳細、手続きの方法、相続放棄を行う際の注意点等について解説していきます。
【目次】
- 1. 相続放棄とは?
- ① 相続放棄が必要なケース
- ② 相続分ゼロと相続放棄の違いは?
- ③ 相続放棄は自分で行えるのか 3
- 2. 相続放棄の申請先や期限
- ① 相続放棄は家庭裁判所に申請する必要がある
- ② 相続放棄の申請期間は相続開始を知ってから3か月以内
- 3. 被相続人との続柄によって申請に必要な書類が異なる
- ① 被相続人の配偶者の場合
- ② 被相続人の子どもなど(直系卑属)(第一順位相続人)の場合
- ③ 被相続人の親など(直系尊属)(第二順位相続人)の場合(先順位相続人(子どもなどの直系卑属)等から提出済みのものは添付不要)
- ④ 被相続人の兄弟姉妹など(第三順位相続人)の場合(先順位相続人(子どもや直系尊属など)等から提出済みのものは添付不要
- 4. 相続放棄を行う時の注意点
- ① 相続放棄は期限が短い
- ② 相続放棄が法的に認められると基本的に取り消しできない
- ③ 相続放棄を行うと相続順位が繰り上がる
- ④ 相続放棄しても相続財産の管理義務は残る可能性がある
- ⑤ 遺産を使うと相続放棄ができないケースがある
- 5. 相続放棄をお考えなら当事務所にご相談ください
相続放棄とは?
相続放棄とは、すべての相続財産を引き継がないという意思表示のことをいいます。
相続放棄を行った者に相続権は認められず、借金などのマイナス財産はおろか、不動産や預貯金等のプラス財産も引き継ぎません。遺留分も認められません。なお、配偶者短期居住権(民法1037条1項2号参照)は相続放棄をした配偶者でも認められます。
相続放棄が必要なケース
相続放棄が必要となるのは、以下のケースが考えられます。
- (1)遺産のうち、借金などのマイナス財産の方が多いとき
- (2)相続争いに巻き込まれたくないとき
- (3)被相続人と関係性が疎遠又は悪いとき
- (4)事業承継等で特定の相続人に財産を集中させたいとき
(1)について
遺産の対象となる財産は、不動産や預貯金のようなプラス財産だけでなく、借金のようなマイナス財産も含まれます。被相続人(故人のこと)が多額の借金を抱えているケースでは、そのまま相続してしまうと、残された家族がその借金の返済義務を負担することになりかねません。このようなケースでは、相続放棄を検討することになるでしょう。相続放棄を行う理由として最も多いのが(1)のケースですが、それ以外の理由で相続放棄することも少なくありません。
(2)について
相続は時に「争族」と呼ばれるほど、家族・親族間で遺産をめぐる争いが過熱し、非常に険悪な状況になりやすいと言われます。そして遺産分割協議の成立には、相続人全員の合意が必要になるため、相続人のままだとこのような相続争いに巻き込まれてしまうことがあります。相続放棄を行うことで、初めから相続人とならなかったものとみなされるため(民法939条)、(2)のような理由で相続放棄を選択する方もいます。
(3)について
そもそも被相続人と関係が疎遠な場合や被相続人に対して悪感情を有している場合、被相続人の財産を引き継ぎたくないという方もいます。例えば、離婚後、母親に引き取られたお子さんが、その後父親と一切交流がなく、あまりいい感情を有していないような場合に、敢えて遺産を引き継がないという選択をされる方もいます。
(4)について
また、経営者である被相続人の後継者として、長男が事業を引き継ぐ場合のように、特定の相続人に財産を集中させ、自社株の分散を防ぐ方法として相続放棄を活用することもあります。
相続分ゼロと相続放棄の違いは?
「相続分ゼロ」(いわゆる「相続分の放棄」)と、「相続放棄」との違いに注意しましょう。
「相続分ゼロ」とは、相続人が相続開始後(被相続人の死亡後)に、相続人としての地位を維持したまま、自己の相続分を放棄することを意味します。簡単に言えば、「相続するけど、遺産はいらない」という状態です。「相続分ゼロ」は、相続放棄とは異なり、家庭裁判所での申述手続きは必要ありません。もちろん、期間制限もありません。
「相続分ゼロ」のケースとしては、遺産分割協議の結果、ある相続人は財産を取得し、他の相続人は相続分をゼロとするケースもあります。例えば、事業承継など特定の相続人に財産を集中させたいケースや、「苦労した兄弟に全財産をあげたい」という想いから相続しないケースなどです。土地や預貯金などのプラスの財産は相続しないという点で、一見すると、相続放棄と同じであるようにも思えます。しかし、相続分をゼロにする場合と相続放棄を行う場合とでは、法的な取り扱いは全く異なります。
民法896条本文は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」と規定しています。これは、相続人はプラスの財産だけでなく、借金などのマイナス財産も承継していることを意味します。
「相続分ゼロ」は、相続人としての地位を維持したままなので、たとえプラスの財産は引き継がなくとも、マイナスの財産は引き継いでいることになります。そして、借金などの負債は、原則として法律上当然に相続分(法定相続分(民法900条参照)など)に応じて分割され、各相続人が負担します(最判昭和34年6月19日民集13巻6号757頁)。債権者(お金を貸している側)から負債分の返済を求められると、相続分ゼロを理由に対抗(返済を拒絶)することはできません。
他方で、相続放棄をした者は、前述した通り、その相続については初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。この相続放棄の効果は絶対的であり、誰に対しても主張することができます。そのため、相続放棄を行っていれば、債権者から負債分の返済を求められても、対抗(返済を拒絶)することができます。
なお、遺産分割調停で「相続分ゼロ」を主張する際は、相続分放棄書の提出が求められる場合があります。
相続放棄は自分で行えるのか
相続放棄は、相続人全員で行うこともできますし、単独で行うこともできます。相続人が自分で手続きすることも、もちろん可能です。もっとも、手続きに不備があると、相続放棄ができなくなることがありますし、詳しくは後述しますが、相続放棄の期限は短く、慣れない中で手続きを行えば時間が足りなくなることもあります。そのため、相続放棄を検討する方の多くが、弁護士等の法律専門家に委任しています。お困りの際は、まずは弁護士等の法律専門家に相談しましょう。
当事務所の相続放棄に関する事案では通常の相続放棄の他に以下のようなものがあります。- ・被相続人の死後3カ月経過したケース
- ・被相続人の債務の支払いを行ってしまったケース
- ・戸籍収集から初めて10日程度で相続放棄の申述を行ったケース
- ・遺産内容がわからないため、相続放棄期間を延長したうえで、十分な遺産調査のうえで、相続放棄を行ったケース
相続放棄の申請先や期限
相続放棄は家庭裁判所に申請する必要がある
相続放棄を行う場合、その旨を家庭裁判所に申述(申請)しなければなりません(民法938条)。しばしば、「相続放棄をした」と主張する方でも、周囲に相続放棄をする旨を宣言したに過ぎず、家庭裁判所で所定の法的手続きを行っていないことがあります。これは「事実上の相続放棄」と呼ばれ、このままでは相続放棄の法的効果は生じません。
相続放棄の申述が受理されると、裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が交付されます。家族の中に「相続放棄をした」と主張する方がいる場合は、通知書があるかどうか確認しましょう。なお、被相続人の債権者からの取り立ての際や、相続登記等の申請手続きの際に、「相続放棄申述受理証明書」が必要になることがあり、この証明書は申請が必要です。
相続放棄の申述は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。
相続放棄の申請期間は相続開始を知ってから3か月以内
相続放棄の申述には期間制限があり、相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、そのまま相続するか(「単純承認」という)、相続放棄するか(あるいは限定承認を行うか)を判断しなければなりません(民法915条1項本文)。この期間は、「熟慮期間」といわれています。
熟慮期間は、利害関係人(相続人も含む)または検察官が家庭裁判所に申し立てることにより、期間を伸長(延長)することができます。申立先は、申述先と同様、相続開始地(被相続人の最後の住所地)を管轄する家庭裁判所です。申請書類や申請費用については、裁判所ホームページでご確認ください。なお、この申立ては、自分の熟慮期間だけでなく、他の相続人の熟慮期間を伸長したい場合にも、行うことができます。
熟慮期間の伸長が法律上認められているとしても、例えば、財産調査に時間がかかり、熟慮期間内に相続放棄すべきかどうかの判断がつかない場合などに限られます。なお、当事務所の取扱いケースでは最長1年間伸長が認められたケースがありますが、申請すれば必ず期間を伸長してもらえるというわけではないので、注意しましょう。
また、期間の伸長の申請自体は、熟慮期間内に行う必要があり、伸長の申請手続きをしないまま熟慮期間が過ぎれば、単純承認したものとみなされるため(同法921条2号参照)、この点でも注意しましょう(参考:法務省|新型コロナウイルス感染症に関連して,相続放棄等の熟慮期間の延長を希望する方へ)。
被相続人との続柄によって申請に必要な書類が異なる
相続放棄の申述は家庭裁判所で行いますが、申述の際は、「相続放棄申述書」のほかに、いくつか申立添付書類が必要になります(参考:裁判所ホームページ|相続の放棄の申述)。
具体的には、まず次の書類が必要になります。
- ・被相続人の住民票除票又は戸籍附票
- ・申述人(相続放棄をする方)の戸籍謄本
このほかの書類については、誰が申述人となるかで異なります。すなわち、相続放棄の申述には、「相続放棄申述書」「被相続人の住民票除票または戸籍附票」「申述人の戸籍謄本」のほかに、被相続人との続柄に応じて以下の書類が必要になります(同じ書類は1通で足りる)。
被相続人の配偶者の場合
- ・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
被相続人の子どもなど(直系卑属)(第一順位相続人)の場合
- ・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 申述人が代襲相続人(孫、ひ孫等)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
被相続人の親など(直系尊属)(第二順位相続人)の場合(先順位相続人(子どもなどの直系卑属)等から提出済みのものは添付不要)
- ・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- ・被相続人の子ども(及びその代襲者)で、死亡している方がいる場合、その子ども(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- ・被相続人の直系尊属に死亡している方(例えば、相続人が祖母の場合の父母など、相続人より下の代の直系尊属に限る)がいる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
被相続人の兄弟姉妹など(第三順位相続人)の場合(先順位相続人(子どもや直系尊属など)等から提出済みのものは添付不要
- ・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- ・被相続人の子ども(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合,その子ども(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- ・被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- ・申述人が代襲相続人(おい、めい)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
相続放棄を行う時の注意点
相続放棄を検討する際は、以下の点に注意しましょう。
相続放棄は期限が短い
相続放棄は、前述の通り、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に家庭裁判所で所定の手続きを行わなければなりません。「3か月」と聞くと比較的時間の余裕があるようにも思えますが、相続放棄をするためには相続財産の調査を完了しなければならず、忙しい日々を送る中で相続財産を隅々まで調査するのは、なかなか骨が折れます。
また、相続放棄の手続きには前述したように、いくつか書類を集めなければならず、その書類集めにも時間が掛かります。慣れていなければ、なおさらでしょう。このような作業をしているうちにあっという間に期限が迫ってくるので、時間的な余裕がないことは少なくありません。
このため、財産調査や関係書類集め等の手続きを、弁護士等の法律専門家に代行を依頼することも検討してみましょう。相続手続きに精通した専門家に依頼することによって、迅速かつ円滑に相続放棄を完了することができます。
なお、当事務所は、ご依頼から相続放棄まで最短10日で対応した事案がございます。お急ぎの方は、まずはご連絡ください。
相続放棄が法的に認められると基本的に取り消しできない
相続放棄の申述が家庭裁判所で受理されると、たとえ熟慮期間中であっても、撤回することはできません(民法919条1項、最判昭和37年5月29日民集16巻5号1204頁)。
相続放棄を行うかどうかは、必ず吟味したうえで慎重に判断しましょう。
なお、相続放棄の申述を行ってから受理が完了するまで一定の期間(概ね1か月程度)が掛かり、受理が完了する前であれば撤回(申述の取り下げ)することはできます。
相続放棄を行っても以下のような事情がある場合には、取り消しすることができます。
- (1)未成年者が法定代理人の同意を得ないで相続放棄した場合(民法5条1項・2項)
- (2)成年被後見人が自ら相続放棄した場合(民法9条)
- (3)被保佐人が保佐人の同意を得ないで相続放棄した場合(民法13条1項6号・4項)
- (4)限定承認や相続放棄が補助人の同意を得なければならない行為と定められているのに、被補助人が補助人の同意又は同意に代わる家庭裁判所の許可を得ないで相続放棄した場合(民法17条4項)
- (5)錯誤により相続放棄した場合(民法95条。福岡高判平成10年8月26日判時1698号83頁等参照)
- (6)詐欺または強迫により相続放棄した場合(民法96条)
- (7)後見監督人があるときに、後見人が後見監督人の同意を得ずに被後見人を代理して相続放棄した場合(民法864条、865条)など
上記の事情を理由に取り消しを行う場合は、その旨を家庭裁判所に申述しなければなりません(919条2項・4項)。この取消しには時間制限があり、上記のような問題が発覚したり、錯誤等の状態が解消されたときから6か月以内に行わなければ、取り消すことができなくなります(同条3項)。相続放棄の時から10年を経過したときも同様です。
このように、相続放棄を取り消すことは法律上できるものの、実際のところ、取り消しが認められることはまずありません。取り消すには上記の事情があったことを示す証拠等の提出が必要になりますが、一般的にそのような証拠等が十分に残っていることは非常にまれです。また、取り消しには上記のような時間制限があります。
相続放棄をしたら基本的に後戻りはできません。安易に行うべきではないでしょう。相続放棄を検討する際は、財産調査を十分に行い、そのまま相続する方がよいのか、すべて放棄するのが良いのかじっくり考えたうえで決断するようにしましょう。
相続放棄を行うと相続順位が繰り上がる
前述の通り、相続放棄をした者は、その相続については初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。このため、一部の相続人が相続放棄をすれば、同順位の他の相続人の相続割合が増加するか、同順位の相続人がいなければ次順位の者へ相続権が移ることになります。
例えば、相続人が被相続人の子どもA・B・Cの3人のケースでは、相続分はそれぞれ3分の1ですが、Aが相続放棄するとB・Cの相続分は2分の1ずつとなり、相続分の割合が増加します。
- 相続人がA・B・C(同順位)
→相続分は各3分の1 - Aが相続放棄
→B・Cの相続分は各2分の1
また、相続人が子どもAのみのケースでは、Aが相続放棄すると、被相続人の直系尊属(父母や祖父母など)に相続権が移ることになります。このケースで、直系尊属がさらに相続放棄をすると、被相続人の兄弟姉妹に相続権が移ります(以上の順位につき、民法887条、889条参照)。
- 相続人がAのみ(子ども1人のみ)
- Aが相続放棄
→次順位の者に相続権が移行(注)
(注)血族相続人(血のつながりのある相続人)には以下のように相続できる順位がある。第2順位以下は先順位の者がいない場合に相続できる。
第1順位 | 子およびその代襲相続人 |
---|---|
第2順位 | 被相続人の直系尊属(父母や祖父母など) |
第3順位 | 被相続人の兄弟姉妹 |
これは特に、被相続人に多額の借金がある場合などで問題となります。被相続人に多額の借金がある場合、相続人の一人が相続放棄すれば、その借金の返済義務は他の法定相続人に移り、返済義務の負担が増すことになります。このようなケースでは、相続人の全員が順次相続放棄をしていかないと、家族・親族のうちの誰かが重い返済義務を負うことになります。
このため、相続放棄をした際、他に法定相続人がいるのであれば、相続放棄したことをしっかり伝えるのが望ましいでしょう。
相続放棄しても相続財産の管理義務は残る可能性がある
相続放棄を検討する際、遺産の管理義務にも注意する必要があります。
相続放棄をすれば、基本的に相続人としての義務(借金の返済義務など)はすべて免れることになります。しかし、その相続放棄によって他の者が相続人となる場合、その新たに相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければなりません(民法940条1項)。
例① 被相続人の子どもAが唯一の相続人で、Aがすべての相続財産を管理していた場合、Aが相続放棄をすると、Aは被相続人の親Bが相続財産の管理を始めることができるまで、その財産の管理を継続しなければなりません。
例② 被相続人の子どもA・Bが相続人で、Aがすべての相続財産を管理していた場合、Aが相続放棄をすると、Aは同順位相続人のBが相続財産の管理を始めることができるまで、その財産の管理を継続しなければなりません。
この財産管理義務には次の委任の規定が準用されています(同項2項)。
- ・報告義務(同法645条)
- ・受け取った物の引渡義務、自己の名で取得した権利の移転義務(同法646条)
- ・費用償還請求権(同法650条1項)
- ・代弁済請求権(同法650条2項)
もっとも、相続放棄の結果、相続人による管理が困難であるか、不適当となる場合は、利害関係人や検察官の請求によって、家庭裁判所はいつでも、相続財産の保存に必要な処分(財産の封印、換価その他の処分の禁止、相続財産管理人の選任など)を命ずることができます(同法940条2項、918条2項・3項参照)。
相続放棄をしたものの、上記の財産管理を行うことが難しければ、家庭裁判所に請求を申し立てるとよいでしょう。
なお、このような相続放棄者が負う管理義務は、相続財産の価値の維持保全に向けられたものです。すなわち、管理を行う相続放棄者がこの管理義務を怠り、管理が不適切であるがために相続人に損害を及ぼしたときは、相続人に対して損害賠償義務を負います。
他方で、この規定は第三者に向けられたものではありません。この規定をもって第三者に被害が生じた場合(建物が崩壊してがれきが通行人に当たった場合など)の損害賠償責任は認められません(国土交通省住宅局住宅総合整備課及び総務省地域創造グループ地域振興室 平成27年12月25日付け事務連絡参照)。
遺産を使うと相続放棄ができないケースがある
いかにも財産を引き継いだ相続人のように遺産を使い込んだり、所定の期間内に手続きを行わなかったりするなど、単純承認(そのまま相続すること)をしたと評価するにふさわしい行動をすると、単純承認したとみなされ、相続放棄ができなくなることがあります(法定単純承認。民法921条)。
具体的には次のケースで、単純承認したとみなされることがあります。
(1)相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき(同条1号本文)
例えば、相続開始を知りながら、遺産である現金や預貯金を使ってしまった場合です。また、遺産である建物を売却してしまったり、取り壊したりすることも、「処分」に該当します。
もっとも、遺産を損なわないようにするための行為(「保存行為」という)や、短期間の賃貸借(民法602条参照)は、該当しません(同号ただし書)。またお葬式の費用を遺産から支払った場合でも、一般常識に照らして過度に華美でない限り、該当しないとされます(大阪高判昭和54年3月22日判タ380号72頁等参照)。
このように判断が難しいケースもあるので、お困りの際は、弁護士等の法律専門家に相談することをおすすめします。
(2)相続人が熟慮期間(自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月)内に、相続放棄をしなかったとき(同条2号)
家庭裁判所で所定の手続きをしないまま、熟慮期間が過ぎてしまったケースなどです(前述)。
(3)相続放棄をした後であっても、相続財産の全部もしくは一部を隠匿あるいはひそかに消費し、または意図的に相続財産の目録中に記載しなかったとき(同条3号本文)
例えば、相続放棄を行った後、遺品整理をした際に1,000万円の現金を発見し、それを自宅の床下に隠したケースなど、他の相続人や債権者等の関係者を裏切るような行為をすれば、単純承認したものとみなされます。
相続放棄をお考えなら当事務所にご相談ください
繰り返しになりますが、相続では、土地や預貯金などのプラスの財産だけでなく、借金等のマイナスの財産も相続の対象となります。プラスの財産だけを引き継いで、マイナスの財産は引き継がない、とすることはできません。相続放棄を検討する際は、上記のような行動をしないよう、十分に注意しましょう。
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