- ・中小企業の経営者の方
- ・事業の後継を考えている方
中小企業を経営されている方で、事業の承継を考えている方も少なくないでしょう。事業承継を考えるベストなタイミングがいつか、一般論を述べることは困難です。もっとも、早期に事業承継を行うことにはメリットがあります。
このページでは、事業承継を行うタイミングについて、早期に事業承継を行うメリットについて、そのほか事業承継に伴うトラブルについてご説明します。
【目次】
- 1.事業承継のベストなタイミングは?
- 2.早期に事業承継を検討する・行うメリットは?
- 検討するメリット① 後継者を育成できる時間が増える
- 検討するメリット② 社内体制の整備等に時間を割ける
- 行うメリット 後継者が様々なことにチャレンジできる
- 3.後継者がいなくても事業承継の準備はできる
- ① 後継者の選定
- ② 会社内部でできる準備
- 4.事業承継の方法を間違えると争いになる
- トラブル① 親族内での遺留分についての紛争
- トラブル② 会社を譲渡する場合の契約トラブル
- トラブル③ 贈与税や相続税の問題
- 5.事業承継の方法を間違えると争いになる
1. 事業承継のベストなタイミングは?
事業承継とは、現在の経営を担っている現経営者が退任して、後任の経営者が就任することをいいます。親族に承継することもあれば、親族外の第三者に承継することもあります。そして、その手段としては、株式譲渡等のM&Aが用いられることもあります。
では、事業承継を行うベストなタイミングはいつでしょうか。
この点、どのタイミングで事業承継を行うことがベストかどうかは、個別の会社の状況や、目的、誰の視点から考えるかによって結論が異なり得るため、一概には述べることができません。
事業承継は、現在の経営者が高齢であったり、病気になったことを理由に、後任者に経営を譲りたい場合に行われることが多いといえます。
その際には、現在雇われている従業員の労働関係・労働条件を維持することをも目的とすることが多く、株式譲渡の方法で事業承継が行われた場合、労働条件もそのまま承継されることになります。
そして、従業員の労働関係や労働条件が継続していくためには、実際に事業を承継した後任の経営者によって、その事業がうまく経営されていくことが不可欠ですが、中小企業庁の統計データによると、後任の経営者へのアンケート結果として、事業承継の時期がちょうどよかったと回答した後任者の平均年齢は43.7歳となっています。
アンケート結果によると、後任の経営者の年齢が30代のときの事業承継に対しては「もっと遅くてよかった」と考える会社員が多い傾向にあり、逆に、50代のときの事業承継に対しては、「もっと早くてもよかった」と考える会社員が多い傾向にあります。
そのため後継者が40代の時期での事業承継が1つの目安となるでしょう。
もっとも、一つの指標に過ぎないため、必ずしも40代での事業承継が好まれるわけではありません。

参考URL
(https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11551249/www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H25/PDF/0DHakusyo_part2_chap1_web.pdf)
2. 早期に事業承継を検討する・行うメリットは?
仮に、親子間で子が40歳のときに事業承継を完了しようと考えた場合、前任の経営者の年齢は65歳くらいでしょうか。
当然、事業承継はいきなりできるわけではなく、数年かけて、株や取引関係やノウハウ等を引き継いでいくことになるため、検討時期はもっと早いことになります。
では、早期に事業承継を検討・実行するメリットはどこにあるのでしょうか。以下、早期検討、早期実行のメリットをそれぞれご紹介します。
検討するメリット①
後継者を育成できる時間が増える
事業承継によって、経営者を交代し、従業員の承継にも成功したものの、後継者の経営が上手くいかなかった場合、結局廃業を考えざるを得なくなり、従業員との労働関係も終了することになってしまいます。
そのため、後継者が会社の経営を円滑に進めていけるように、後継者教育が必要となる場合があります。
事業承継の検討の時期が早い場合、後継者が比較的若いうちからの教育が可能になります。早めに経営のノウハウ・様々な経験を積むことで、後継者が事業を承継するまでに、経営を行うのに十分な教育を施すことが可能になります。
これにより、承継後の経営が成功する可能性も高まります。
検討するメリット②
社内体制の整備等に時間を割ける
後継者による新体制に切り替わる場合、社内体制の整備を行うことも必要となります。
社内体制の整備等にも時間がかかるため、早めに事業承継を行うことによって、社内体制の整備等に十分な時間をかけることができます。
行うメリット
後継者が様々なことにチャレンジできる
事業を承継した後継者は、比較的年齢層が低く、体力的にも余裕があることから、経営改善を図りやすく、様々なことにチャレンジすることができます。
実際に事業を承継した後継者が意識的に行った取り組みとして、「新たな販路の開拓」や「新製品・新サービスの開発「新事業分野への進出」を挙げるケースが多くなっています。
また、その結果として、事業承継を実施した会社は同業種平均を上回る売上高成長率となっており、純利益成長率では同業種平均を20%以上も上回っています。

参考URL
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap3_web.pdf
3. 後継者がいなくても事業承継の準備はできる
上記みたとおり、事業承継への検討・取組みは、時期が早い方が良いとされています。もっとも、そもそも事業を承継してくれる候補者がいない会社も少なくありません。そして、候補者がいない場合、往々にして、事業承継への検討・取組みが後回しにされがちです。
しかし、現時点で、具体的な後継者候補がいなくても、事業承継の準備を進めることはできます。以下、具体的な準備の内容について、後継者の選定、そして会社内部でできる準備をご紹介します。
① 後継者の選定
(1) 後継者の募集
先のように書きましたが、事業承継において後継者候補を探すことが、最も重要であることは変わりありません。そのため、親族や子に限定せず、候補者を広げることも必要です。
実際、親族等から後継者が見つからない場合、従業員を後継者に考える人は少なくないです。
なお、従業員の場合、社外にいる親族の場合と違って、すでに会社についての知識や経験を有しているため、教育にかかる時間が短くて済むというメリットがあります。
また、事業承継・引継ぎのワンストップ支援を行う機関として『事業承継・引継ぎ支援センター』があります。
『事業承継・引継ぎ支援センター』は、事業承継・引継ぎの相談から、事業承継計画の策定・譲受人を見つけるためのマッチング支援を業務内容としており、社外の後継者を探す手助けをしてくれます。
その他、日本政策金融金庫によって無料で提供されている事業承継マッチング支援があります。
具体的には、後継者を探す中小企業・小規模事業者と、起業を目指す後継者とのマッチングを支援する無料サービスです。
ニーズが一致する両者を引き合わせることで廃業を回避させ、技術・ノウハウや雇用の喪失を防ぐことができます。
(2) 会社外への会社譲渡を検討する
いわゆるM&Aなどを行い、第三者が会社を引き継ぐことも検討すべきです。
契約条件やスキームをきちんと整備することで、今の従業員の労働契約を維持することもできます。
取引相手の探し方も様々ですが、M&Aマッチングサイトの活用や、M&A仲介会社を活用することが考えられます。
この場合、ノンネームシートという、会社を特定されない範囲で、会社の情報をまとめた資料を作成する必要があります。
また、当然のことながら、ノンネームシートには、会社の売却相手の興味を誘うような情報を嘘偽りなく記載する必要があります。
会社売却の方法は、株式譲渡や事業譲渡など様々なスキームがありますが、これらは売り手と買い手の交渉によって方法が決められます。
株式譲渡の場合、譲渡契約の中で労働関係を維持するかを取り決めておくことが一般的ですが、そもそも株式譲渡は労働関係も含め会社ごと(株式)を売却する包括承継なので、労働関係・労働条件はそのまま維持されます。
また、承継後の解雇や不利益な労働条件の変更は、解雇権濫用等となり、無効になる可能性もあります。
一方、事業譲渡は、個々の契約関係を譲渡する特定承継なので、承継される労働者の範囲等を慎重に交渉する必要があります。
② 会社内部でできる準備
後継者がいなければ、事業承継はできませんが、事業承継しやすい会社、後継者側からすると事業承継しやすい会社にするよう準備することで、後継者が見つかった場合の事業承継を円滑に行うことができます。
具体的な方策としては、
(1)書類をまとめておくこと
(2)株をまとめておくこと
(3)属人的要素を減らすこと
が考えられます。
(1)書類をまとめておくこと
会社の現状を把握する上で重要となるのが決算書、定款、組織図、契約書といった書類です。こうした書類をまとめておくこと、不足する書類があるならば作成しておくことで、後継者に対して自身の会社をアピールすることができます。
(2)株の所有を確認し、まとめておくこと
事業承継をする際には、株式会社であれば株を後継者に譲っていくことになります。
いざ事業承継しようとしても、実際に株を誰が所有しているかわからない、社長の選任や事業譲渡の決議に必要な株がまとめられていないのであれば承継することはできません。
事前に株の所有を確認・まとめておき、決議を得られるようにしておくことも大切です。
(3)属人的要素を減らすこと
属人的要素とは、経営者の人柄や能力・技術・ノウハウ・人脈等にかかっている要素のことをいいます。
個人企業には、経営者自身の人柄や能力によって経営が成り立っており、他の従業員は経営者の決定に従うのみという状態になっている会社も多く存在します。
この状態で事業承継がなされてしまうと、会社の競争力が失われ、経営判断を行う者が社内にいない状態になってしまい、従前のような経営を行うことができないことがあります。
こうした要素をなくしていくこと、具体的にはノウハウを伝授する、意思決定に関わる機会を与える、得意先を紹介する等といった準備が必要となります。
4. 事業承継の方法を間違えると争いになる
事業承継には、親族内事業承継、社内事業承継、M&Aなどの方法が考えられますが、事業承継の方法を間違えると、争いに発展する可能性があります。
以下、事業承継の方法を間違えた場合に生じるトラブルについてご説明します。
トラブル①
親族内での遺留分についての紛争
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に対して民法上確保されている最低限度の遺産のことをいい、遺贈や遺言などによっても侵害することができない財産の割合をいいます。
これは、相続人の生活を保護するためのもので、法定相続分に2分の1などの割合を乗じて計算されます。
そして、被相続人が現経営者であった場合で、当該会社の株式を遺言によって、後継者に承継させた場合、法定相続人の遺留分を侵害したとして、遺留分侵害額請求をされる可能性があります。
また、生前の贈与によって株式譲渡を行った場合でも以下のような贈与は、遺留分侵害額請求の対象となります。
具体的には、
- 相続開始前の1年間に行われたすべての贈与
- 贈与者(被相続人)と贈与の受贈者とが共に、遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与
- 相続開始前10年以内に行われた(相続人に対する)特別受益に該当する贈与
が対象として挙げられます。
遺留分侵害額請求がなされると、金銭で清算が行われます。
そして、非上場企業の株式の場合、売却が困難かつ、後述するように評価額が高価となる場合があるため、多額の遺留分を請求される危険性があります。
遺留分に対する予防策としては、例えば、相続開始10年より前の相続人に対する贈与は、遺留分から除かれるため、事業承継に対する取り組みを早めに着手し、株式譲渡を早めに行うことが有効です。
トラブル②
会社を譲渡する場合の契約トラブル
株式譲渡契約による会社譲渡の際には、契約トラブルが生じるおそれがあります。具体的には、以下のトラブルが考えられます。
株式譲渡にかかる各種手続きに関して
非上場会社の場合、株式のほとんどが譲渡制限株式とされていることが多いです。
譲渡制限株式とは、株式の譲渡について会社の承認を必要とする株式で、承認が得られなかった場合、会社との関係では譲渡は無効として扱われてしまいます(当事者間では契約自体、有効)。
そこで、株式譲渡の条件として株主総会や取締役会などの、譲渡制限株式の譲渡にかかる各種手続きを済ませていることやそのような手続きを売主の義務として行うことを契約の内容に掲げることが必要です。
連帯保証契約の承継
株式譲渡は会社の所有者・経営者が入れ替わるのみで会社の中身は法律上は変わらないため、従業員や、各種契約関係・所有不動産等もすべて承継されます。
そのため、融資を受けた際の連帯保証契約を元の経営者が負っているような場合、きちんと銀行手続きをしなければ、連帯保証は元経営者に残ったままとなります。
そして、銀行などの債権者から元経営者に対して保証債務の弁済を求めた際にトラブルになります。
このようなことにならないよう、連帯保証の切替については必ず銀行手続きを行う必要があります。
株式譲渡にかかる税金の考慮
株式譲渡によって、譲渡所得が発生した場合、譲渡所得税が課せられることになります。売却の価格によって税金が課されるので、値段設定時に考慮に入れて交渉を行う必要があります。
この点、単に株式譲渡対価として支払う方法の他に、退職金としての払出しを行う等、元経営者に対する支払方法によって税額は大きく異なります。
税金の算出には複雑な計算を必要とすることも多いため、専門家に相談をするようにしましょう。
トラブル③
贈与税や相続税の問題
非上場株式を贈与して事業を承継した場合、あるいは相続して事業を承継した場合、贈与税・相続税が発生する場合があります。以下、贈与税と相続税に分けて解説いたします。
贈与税
贈与税とは、贈与をした側(贈与者)から贈与を受けた側(受贈者)に移転した財産が課税対象となる場合、受贈者に課せられる税金をいいます。
贈与税の課税方式である暦年課税の場合、贈与を受けた人が1年間の間に贈与を受けた財産の価額・評価額を基に税金が算出されます。
具体的な計算式は以下のようになります。
(1年間の贈与財産の合計-基礎控除額110万円)×税率-控除額=贈与税の額
上記計算式から分かるように、年間の贈与額が110万円を超えない場合、贈与税は課せられません。
そのため、毎年110万円を超えないように財産を贈与して、相続時に課税の対象の対象となる財産を減らしつつ、贈与税も課されないようにすることも可能です。
相続税
相続とは、被相続人の死亡によって、被相続人が死亡した時に有していた一切の権利・義務が被相続人から相続人に承継されることをいいます。
そして、相続税とは、上記権利義務の承継によって移転した財産に対して課税されるものです。
計算の過程は複雑ですが、簡単に説明すると、課税の対象となる財産の課税価格の計算を行い、これらから控除するべき債務費用を控除して得られた課税遺産総額に、税率を乗じて、相続人ごとに実際に相続した財産の課税価格に応じて按分したものが、その相続人の相続税額になります。
課税遺産総額×法定相続人の法定相続分×税率-控除額=各人の仮の相続税額(算出税額)
→算出税額を全相続人分合算=相続税の総額
→相続税の総額×按分割合=各相続人の相続税額
課税価格の計算時には、現金や預金は、その額がそのまま基礎になるのに対して、不動産や株式の場合、その評価額が算定の基礎として扱われます。
そして、非上場株式には取引市場がないため、国税庁が定める計算方法によって評価額を算定します。そのため評価額は高額になりやすく、相続税も高額になりやすいです。
※事業承継税制について
非上場株式の贈与・相続による事業承継の場合、上記のように評価額が高額になりやすく、納税の負担が重いため、納税資金がないとそもそも株式を引き継げない危険性があります。
一方、後継者が事業を継続した場合、雇用等を生み出してくれるため、社会的に見ても、事業が承継されるよう奨励する必要があります。
そこで、事業承継税制が用意されており、これを利用することで、納税の猶予や免除を得ることができます。詳しい内容は、ほかのページで説明しているので「事業承継税制」をご参照ください。
端的に説明すると、都道府県の認定や、事業の継続、従業員の雇用の継続など一定の要件を具備している間、贈与・相続税の納税が猶予されます。
加えて、5年間の事業の継続後に事業を承継し、譲受人が同様に事業承継税制を利用する等の一定の要件を満たすと、納税が免除されます。
高額な贈与税・相続税の負担を免れるためには同制度を利用することができますが、要件や手続きが複雑なので、専門家に相談することをおすすめします。
5. 事業承継をお考えの方は当事務所へご相談ください
事業承継には、経営者の高齢や病気を理由に経営権を譲り渡す側面と、適切に承継する側面があります。そのため、事業譲渡を検討するタイミングが重要であることは上述の通りです。
また、後継者が見つからずにお困りの方も少なくないでしょう。事業承継を決定した場合であっても、契約においてトラブルを避けるためには専門家を介した交渉を行うことが望ましい場合があります。
後継者のいない場合の事業承継に関してお悩みの際は、神楽坂総合法律事務所へご相談ください。
当事務所の弁護士がご相談者様のご意向に寄り添いながら提案サポートさせていただきます。
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