・従業員を解雇したいと考えている企業経営者の方
【目次】
1. はじめに
昨今のコロナウイルスの影響による経済情勢の悪化や従業員の方との各種のトラブルにより、やむなく解雇を検討される経営者の方もいらっしゃると思います。
一方で、解雇は、その仕事によって生計を立てている従業員からすれば、非常に重大な制裁です。
実際に、労働基準法や労働契約法によっても労働者の地位は手厚く保護されていますし、解雇をめぐって雇用者と労働者間で訴訟に発展するようなトラブルが生じることも少なくありません。そのため、解雇にあたっては、慎重な対応が求められます。
この記事では、雇用者が労働者を解雇する場合の条件とその手続の注意点についてご説明します。
神楽坂総合法律事務所は、労働分野にも注力した法律事務所で、現に企業と従業員間の紛争も数多く経験しています。また、当事務所では、社会保険労務士と連携してワンストップで労働関係の問題をサポートしております。
解雇をめぐるトラブルについて、わからないことがある方、不安がある方は、一度ご連絡ください。
2. 解雇に関するルール
解雇に関するルールは、雇用契約に期間の定めがあるか否かによって異なります。
まずは、雇用契約に期間制限があるのかどうか確認しましょう。
① 雇用契約に期間の定めがある場合のルール
- 原則:期間中の解雇は不可
- 例外:「やむを得ない事由」があるとき(労働契約法17条)
「やむを得ない事由」の判断
「やむを得ない事由」があるか否かは、個別具体的な事情によって判断されます。ただし、契約期間というのは、使用者と雇用者が合意して定めたものですから、基本的には守られなければならないと考えられています。そのため、「やむを得ない事由」に該当する場合は、後述する「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」よりも狭いといわれています。
② 雇用契約に期間の定めがない場合
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することにっよって終了する。(民法627条1項)。
このように、民法は、期間の定めがない雇用契約について、解雇の自由を認めています。
しかし、労働法は、労働者を保護する観点から、解雇について様々な制限をしています。そして、労働法の規定は民法の規定に優先する関係にあるので、解雇の自由は、労働法上の規定に抵触しない範囲で認められることになります。
3. 法律による解雇の制限
法律によって解雇が制限されている場合は次のとおりです。
これらの事由に当たる場合には、解雇が認められないため、注意が必要です。
- ① 労働災害療養者の解雇制限(労働基本法19条1項、同75条)
- ② 産前産後休業者の解雇制限(労働基本法19条1項、同65条)
- ③ 国籍・信条・社会的身分による解雇制限(労働基準法3条)
- ④ 女性であることを理由とする解雇制限(雇用機会均等法8条1項)
- ⑤ 婚姻・妊娠・出産を理由とする解雇(同条2項、3項)
- ⑥ 労働基準法に基づき産前6週間、産後8週間の休業をしたことを理由とする解雇(同3項)
- ⑦ 労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、またはこれを結成しようとしたこと、正当な組合活動をしたことを理由とする解雇(労働組合法7条1号、4号)
- ⑧ 労働基本法による解雇の予告義務違反(労働基本法20条1項、同条2項)
- ⑨ 客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合(労働契約法16条)
今回は、⑧と⑨について、詳しくみていきましょう。
4.解雇予告義務について
① 予告が必要な場合
使用者が、労働者を解雇する場合には、解雇の30日前までに解雇について予告をする義務があります。
30日前までに予告をしない場合には、30日分以上の平均賃金を支払わなければならなくなります(労働基本法20条1項本文)。
ここで、30日とは、予告した日の翌日から数えて30日を意味します。例えば、1月1日に予告した場合、1月31日に解雇することができます。
② すぐに解雇したいという場合の方法
- 30日分の賃金額相当の解雇予告手当を支払う(これを即時解雇といいます。)
- 30日に満たない日数分の賃金相当額の解雇予告手当を支払う
⇒解雇される従業員に対し、30日分の賃金相当額を支払えば解雇が可能です。
③ 解雇予告の方法
「解雇予告通知書」を作成して、従業員に交付することをおすすめします。
法律上は、口頭での解雇予告も可能ですが、口頭で行った場合、いつ予告がなされたのか等を巡って後々争いになる可能性があります。
紛争を避け、従業員の方に納得していただくためにも、書面で予告を行うようにしましょう。
④解雇予告通知書の記載事項
通常、以下の事項を記載します。
- 従業員の氏名
- 社名、代表者名
- 作成日 ※従業員に手渡す日OR発送する日
- 解雇する日
- 「解雇する」という旨の意思表示
- 解雇理由
- 解雇理由となる就業規則の条文
⑤ 30日分の賃金相当額を支払わずに解雇予告が不要な場合
解雇予告義務には例外があります。以下の場合には、30日分の賃金を支払わず、また、解雇予告もすることなく、解雇をすることが出来ます。
「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」(労働基本法20条1項但書)
※この場合、労働基準監督署長から認定を受ける必要があります(同条3項)。
- 例)
- ・大規模な地震により事業場や工場が倒壊し、事業が継続できなかった場合
- ・火災によって事業所が焼失し、事業が継続できなかった場合
- 等
「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」(同法20条1項但書)
※この場合、労働基準監督署長から認定を受ける必要があります(同条3項)。
- 例)
- ・会社内での暴力事件
- ・従業員による会社財産の横領
- ・重大な経歴詐称
- 等
解雇予告の対象外の者を解雇する場合
解雇予告の対象外となる者 | 例外的に解雇予告が必要な場合 |
---|---|
日々雇い入れられる者(同法21条1号) | 1ヶ月以上使用される場合 |
2ヶ月以内の期間を定めて使用される者(同条2号) | 所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合 |
季節的業務に4ヶ月以内の期間を定めて使用される者(同条3号) | 所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合 |
試用期間中の者(同条4号)/td> | 14日を超えて引き続き使用されるに至った場合 |
⑥ 解雇義務に違反した場合の効果
30日の予告期間をおかず、また、30日分の賃料相当の予告手当も支払わずに解雇通知をした場合、その時点で解雇の効力は生じません。
ただし、使用者が、即時解雇に固執する趣旨でない限り、当該解雇通知は、解雇予告と同様に扱われます。つまり、通知後30日の期間を経過するか、通知の後に予告手当の支払いをしたときは、そのときから解雇の効力が生じることになります。
5. 解雇に正当な理由が認められる場合とは?
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合(労働契約法16条)には、雇用が制限されます。
① 「客観的に合理的な理由」とは?
客観的に合理的な理由が認められる事情の例は以下のとおりです。
病気や怪我による職場復帰が予測し得ないほどの長期間の入院
※労働基本法19条により、労災による病気・怪我の場合には、解雇が制限されていることに注意が必要です。
誹謗中傷や重要な経歴の詐称により信頼関係が破壊されたとき
※信頼関係が破壊されたか否かの考慮事情としては、
- ・経歴の詐称をしたか
- ・就業規則に記載があるか
- ・重要な経歴か
- ・求人条件にふれるか
- ・故意にしたものか
等があります。
勤務成績や勤務態度が著しく悪い時
労働者が職場規律を違反した時 ※懲戒事由と同様に判断されます。
経営者の必要性にもとづく理由
- 例えば、
- ・経営の合理化によって職種が消滅したが、他部署への異動が不可能な場合
- ・経営不振によりリストラの必要性が生じた場合
- ・会社解散を行う場合
- 等です。
② 相当性の判断
一般的に、裁判所は、「解雇の事由が重大な程度に達しており、他に解雇回避の手段がなく、かつ労働者の側に宥恕すべき事情が殆ど無い場合」に、相当性を認めています(菅野和夫『労働法[第12版]』[2019、弘文堂]787頁)。
労働者保護の観点から、相当性の要件も厳しく判断されているといえます。
6. おわりに
以上のように、解雇については様々な規制があり、解雇に正当な理由が認められるかどうか判断する際には、具体的な事情を各規制や裁判例に照らして検討する必要があります。
また、最初は順調に交渉が進んでいるように感じたとしても、今後いつトラブルに発展するかはわかりません。万一、会社が不当解雇を行ってしまった場合には、解雇時点からの賃料やその他の損害賠償を請求されるおそれがありますから、安易な対応は危険です。
解雇についてお困りの際は、ぜひ当事務所の弁護士にご相談ください。
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