- ・借地上の建物を相続した方
- ・遺産に借地上の建物がある方
借地上の建物を相続した場合、いくつかの点で注意しなければなりません。また、遺産分割の方法として建物を共有することがありますが、借地上の建物を共有することでリスクが生じることもあります。
ここでは、相続で借地上の建物を取得した場合の注意点、借地上の建物を共有するときの注意点について解説していきます。
【目次】
- 1. 相続で借地上の建物を取得した場合の注意点
- ① 地代滞納に注意
② 借地権譲渡に関する地主の許可は不要
③ 地主に名義変更料を支払う必要はない
④ 必要な名義変更登記を忘れないように! - 2. 借地上の建物を共有するときの注意点
- ① 売却等を行う場合、他の共同名義人の許可が必要
② 相続人が亡くなった場合の権利関係が複雑になる
③ 借地代の支払いをめぐってトラブルになる可能性がある
1. 相続で借地上の建物を取得した場合の注意点
相続によって借地上の建物を取得した場合、以下の点に注意しましょう。
なお、相続の対象となるのは、建物などの目に見える財産だけでなく、財産的価値のある借地権も対象となります。
① 地代滞納に注意
借地契約(土地の賃貸借契約)では、借地人(土地を借りている者)の相続人が借地の利用を継続するためには地代を支払う必要があります。一定期間、地代を滞納し続けると借地契約の解除原因となって借地権を失い、借地人の費用負担で建物を取り壊す義務が生じます。
相続後だと、①地主の支払先等がわからない、②相続人間で借地権付建物の相続や費用負担で話がつかない等の理由により、地代の支払を忘れがちですが、これらは、支払いが遅れてよい理由となりません。
借地上の建物を相続した際は、忘れずに地代を支払うようにしましょう。
② 借地権譲渡に関する地主の許可は不要
相続によって相続人が借地上の建物を取得した場合、借地権の譲渡に伴う地主への許可は不要です。
相続とは違い、借地上の建物を売却や譲渡する際は、一般的に地主の承諾が必要になります。民法612条1項は、「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し・・・することができない。」と規定しています。
借地権は建物に付随しているため、建物を売却等すれば、一般的に借地権も一緒に譲り渡すことになります(借地権がなければ建物を取り壊さなくてはならない)。
このため、建物を売却等する際は、賃貸人(=地主)の承諾が必要になります。一般的に賃貸借契約書内にも「借地権の譲渡には地主の許可が必要」とする旨が定められています。
他方で、相続によって相続人が借地上の建物を受け継ぐケースでは、借地権の譲渡に該当せず、地主の許可は不要です。相続人は被相続人の権利をそのまま引き継ぐことになるので、借地権の譲渡には該当しないのです。
なお、遺言によって相続人以外の第三者に譲渡する場合(遺贈の場合)は、地主の許可が必要です。
③ 地主に名義変更料を支払う必要はない
相続の場合、名義変更料についても不要です。
法律上の根拠があるわけではありませんが、建物を売却や譲渡する際は、地主の許可と併せて譲渡承諾料や名義変更料などの金銭を支払うのが一般的です。通常、契約書内に「譲渡等の際には承諾料が必要」という規定が設けられており、地主に代わる裁判所の許可(借地借家法19条1項前段)を得る際にも、裁判所から一定の金銭の支払いを命じられることがほとんどです。承諾料は、個々の事情によりますが、一般的に「借地権価格×10%」程度が目安とされます。
他方で、借地上の建物を相続した場合、その建物の名義を被相続人から相続人へ変更する登記(相続登記)をすることになりますが、この場合でも地主へ名義変更料を支払う義務はありません。
なお、遺贈の場合は前述の通り、地主の許可が必要であることに加え、名義変更料などの金銭が必要になります。
④ 必要な名義変更登記を忘れないように!
相続した建物の今後の処遇については、
- (1) 地主に借地権を返還する
- (2) 建物を売却等する
- (3) 相続人間で利用する
などが考えられます。⑴~⑶のケースでは、以下の対応が必要です。
(1) 地主に借地権を返還する
このケースでは、土地の利用権が失われる以上、基本的に建物を取り壊さなくてはなりません。一般的な借地契約では、借主自身の費用で建物を収去(取り壊し)しなくてはならない旨の「原状回復義務」の条項が設けられています。このため、地主に借地権を返還する場合は、自己負担で建物を取り壊し、土地を明け渡すことになります。
しかし、自己負担で建物を取り壊すことを回避し、借地権を返還したい場合、「建物買取請求権」を行使するという方法があります。これは、借地権の期間が満了したときに、借地契約の更新がないときは、地主に対して建物等を買い取るべきことを請求することができる権利です(借地借家法13条1項)。
合意解約の場合にも建物買取請求権を認めるべきか否かは争いがありますが(「認めるべき」が学説の有力説。なお、札幌地判昭和40年4月26日判タ176号191頁参照)、契約違反などを理由に解除された場合は認められないとされます(最判昭和35年2月9日民集14巻1号108頁)。建物買取請求権を検討する際は、弁護士等の法律専門家に相談した方がよいでしょう。
(2) 建物を売却等する
建物を売却したり、譲渡したりするケースでは、地主から譲渡の承諾を得なければならない点に注意しましょう。
借地上の建物は借地人(借地権を有する者)が所有する建物なので、第三者に売却することができます。しかし、繰り返しになりますが、建物を売却や譲渡する際は、一般的に地主の承諾が必要です(民法612条1項)。
もし、地主の許可を得ずに建物を売却等し、建物の新所有者が使用・収益すれば、無断譲渡を理由として、地主との賃貸借契約が解除されることになりかねません(同条2項)。そのため、建物の売却等を行う際は、必ず地主の許可を得るようにしましょう。
地主が譲渡の承諾をしない場合は、裁判所の力を借りましょう。地主に不利になるおそれがないのに、地主が許可しない場合は、裁判所に申し立てることによって地主の承諾に代わる許可を得ることができます(借地借家法19条1項前段)。すなわち、地主から許可が得られなくとも、裁判所が地主に代わって許可すれば、借地権を譲渡することができます。
(3) 相続人間で利用する
相続人間で借地上の建物の利用を続けるケースでは、借地権そのもの、もしくは借地上の建物の名義変更登記(相続登記)を忘れずに行うようにしましょう。
借地の利用は、借地契約の当事者である地主に対して登記なしで主張することができるものの、例えば、借地の購入者(土地の新所有者)のような第三者に対して、登記がなければ主張することはできません。
具体的には、借地権そのものを登記するか(民法605条)、借地上の建物の名義変更登記(借地借家法10条1項)をしなければ、借地権を第三者に対抗することができず、建物を取り壊さなくてはなりません。実務では、ほとんどのケースで後者の方法(借地上の建物の名義変更登記)が利用されます。借地上の建物を相続した際は、建物の相続登記を必ず行いましょう。
相続人間で利用するケースについて、借地上の建物を相続人の一人が利用する場合もありますが、複数の相続人が共有という形で借地上の建物を利用する場合では、特に注意が必要です。
2. 借地上の建物を共有するときの注意点
共有とは、一つの物を複数人が共同で所有することをいい、各人がその物を所有する割合である「共有持分」を有します。不動産の相続でしばしばみられる所有形態です。
建物などの不動産は金銭とは違って分割しづらいため、公平な遺産分割を目指して、複数の相続人が1棟の建物を共有することがあります。公平な分割が可能な点や、財産をそのまま残すことができる点で、一見合理的な所有方法とも思えますが、相続をきっかけとする不動産の共有は、トラブルが生じやすいとされます。
以下では、借地上の建物を共有するときの注意点を見ていきましょう。
① 売却等を行う場合、他の共同名義人の許可が必要
共有している不動産を売却するには相続人(共有者)全員の許可が必要です。
1棟の不動産を共同で相続した場合、その不動産を各相続人(共有者)が相続分(「共有持分」に対応)に応じて共有することになります。このような共有状態では、持分の割合に応じて不動産の利用方法に次のような制限が生じます(民法251条、252条)。
内容 | 具体例 | 持分割合 | |
---|---|---|---|
保存行為 | その不動産の価値を維持する行為 | ・ 不動産の修繕 ・ 不法占拠者に対する明渡請求 |
各人が単独でできる |
使用行為 | 共有物の全部について、その持分に応じた使用ができる | ・ 不動産に居住 | 各人が単独でできる |
管理行為 | その不動産を利用・改良する行為 | ・ 短期間の賃貸借 ・ 賃貸借の解除 ・ 不動産をリフォーム |
持分の過半数の同意が必要 |
変更行為 | その不動産の性質に変更を加える行為 | ・ 不動産の売却 ・ 抵当権の設定 ・ 長期間の賃貸借 |
全員の同意が必要 |
このため、例えば、何らかの資金需要が発生し、まとまった金銭が必要になった場合でも不動産の売却には共有者全員の同意が必要で、一人でも売却に反対すれば売却することができなくなります。
共有者間でコミュニケーションが取れ、良好な関係であるうちはよいのですが、何らかの理由で仲が悪化した場合、あるいは共有者の一人が経済的に苦しい状況になってしまった場合は、建物を仲良く共同管理し続けられなくなる恐れがあります。
また共有持分自体は各人が譲渡できるので、家族以外の第三者が共有者になるリスクもあります。共有は公平な分割方法ですが、問題の先送りともいえるでしょう。
なお、建物持分の売却等に伴い借地権の持分の譲渡も生じるので、前述の通り、地主の許可も必要になります(民法612条1項)。
② 相続人が亡くなった場合の権利関係が複雑になる
借地上の建物を共同で相続した場合の問題点の2つ目は、共有者が死亡して新たに相続が発生すると、その建物の権利関係が非常に複雑になるという点です。
共有者が亡くなると、それぞれの配偶者や子どもに相続されることになり、共有持分が細分化されます。そして、共有者の数が増え、不動産の権利関係がより複雑になるリスクがあります。相続が繰り返し発生すると、一度もあったことがない者同士が共有者になることもあります。
こうなると、建物の管理をめぐって合意を得ることは難しくなり、子どもや孫の世代が非常に苦労することになるでしょう。
また、疎遠な親戚の連絡先を把握してることはまれで、同じ不動産の共有者なのに行方不明や連絡が取れないといったこともよくあり、こうなると共有不動産の処分が困難となります。
③ 借地代の支払いをめぐってトラブルになる可能性がある
冒頭で解説したように、借地の利用の際は地主に地代を支払わなければなりません。また、建物部分の固定資産税等の税金も発生します。
これらの費用を共有持分に応じて各自が負担すればよいですが、不動産を主に管理している共有者が全額負担し、他の共有者は負担しないというケースがあります。このようなケースでは、地代や税金の支払いをめぐって、共有者間でトラブルになるリスクがあります。
以上、借地上の建物を共有するリスク等を解説しました。
もしも、一時的に共有するとしても、将来的には、相続人の一人が相続する、不動産を売却して可分性の高い金銭に換える、などの対応が望ましいでしょう。
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